西村明芳の途方もなく大きな版画と旧小野瀬邸の空間が出会う一日
板の間や土間、居室いっぱいに展示された多くの作品には、人々のさまざまな顔が見えます。
それは喜びの表情なのか?それとも哀しみ?
人々はこのような感情をあらわに、どこへ行こうとしているのか。

晩秋の11月23日、商業祭(いがっぺ市)に対応した当市民の会主催のイベント、「第2回旧小野瀬邸現代美術展と茶会」を開催いたしました。
今回は、うしく現代美術展等でご活躍の牛久市在住の西村明芳さんをお招きし版画展を。そして市内でご活躍のお茶の先生によるお茶席を設けました。
昨年の胡桃沢千晶さんと藤沢裕策さんの現代美術展の成功によって、旧小野瀬邸の古い空間と現代アートがよく合うことが実証されました。そして、今回は、「第2回旧小野瀬邸現代美術展と茶会」として、旧小野瀬邸に現代アートを定着させようと、「第2回・・・」と名付けてこの企画に挑みました。
当日はポカポカ陽気の晴天に恵まれ、歩行者天国となった大通り商店街には、どっと人が押し寄せました。その影響もあって旧小野瀬邸に来られた方は約1000人に上り、1日の入場者としては過去最高となりました。準備段階から、絶え間のない来訪者に恵まれ、関係者一同嬉しい悲鳴となりました。
来ていただいた方には様々な目的がありました。"版画展が見たかった。""旧小野瀬邸の建物が見たかった。""茶の湯を楽しみたかった。""庭でゆっくり休みたかった。"そのほか、ただ呼び止められたから立ち寄った方や、塀面いっぱいに展示された巨大な版画に引き込まれた方など、いろいろでした。
今回は版画展とお茶会、そして旧小野瀬邸の魅力が加わり、それらの相乗効果が際だったイベントになりました。
西村明芳の版画の世界、地層シリーズ

さすらいの旅人

旧小野瀬邸に相応しく肥料袋に刷り込んだ版画です。

西村明芳氏の作品に描かれているもの。それは、戦争によるものなのか?それとも核汚染によるものなのか?人々は様々な理由で土地を追われ、あてもなくさまよい続けています。 「さすらいの旅人」はこのような人間の苦悩が描かれていて、「地層シリーズ」へと続く序章と言える作品なのかもしれません。
そして、すべての大地は汚染され破壊され、人間は土の中に潜り、木の根っ子と共生しながら生き延びようとする。「根っ子の歌」という作品は作者自身が「シェルター」とサブタイトルを付けているように、木の根っ子がシェルターの役割をし、人間の命を守り続けてている姿が描かれています。
やがて木の根っ子さえも朽ち果てて、人間は生き延びるために、さらに深く深く潜り続けるのです。それが西村氏が「地層シリーズ」で描こうとする人間の愚かさで、今地球上で現実に起きている紛争。イラク戦争を始めとする国際紛争への警鐘なのかもしれません。
絵の中の様々な顔。大人たちの悲しい表情が描かれている反面、子どもたちはけっして笑顔を絶やしていません。暗いテーマの中に、一点の光となっている子どもたちの表情に西村氏の優しい人柄を感じました。
華やいだ受付のお嬢さんたち

今回は、お茶会のお嬢さん方に受付を担当していただきました。旧小野瀬邸には、やはり和服姿がよく似合いました。
「私の作品は暗いので・・・・、」と西村さん。「艶やかな和服姿のお嬢さん方が、ひらひらとまるで絵の中で蝶が飛び交っているようだった。」と、芸術家らしい表現をされました。これも現代アートとお茶会の相乗効果の一つといえるものでした。
死んだ男の残したものは
今回の企画に合わせて制作していただいた「死んだ男の残したものは」という作品です。これは谷川俊太郎の詩に西村氏が絵(版画)を付けたものです。版画というメデアを通して、谷川俊太郎の詩の世界がイメージとしてどんどん広がって行きました。
死んだ男の残したものは 死んだ女の残したものは 死んだ兵士の残したものは 死んだ歴史の残したものは
死んだかれらの残したものは 死んだ兵士の残したものは 死んだ子どもの残したものは 死んだ女の残したものは

陽の下で

旧小野瀬邸の路地裏から表通りへと続く塀面を覆った版画、地層シリーズ

庭園に展示された版画、地層シリーズ
(西村明芳氏撮影)
屋内に収まらない大きな版画は、庭や塀に展示してみました。陽の下で見る作品はいっそう奇抜さを増し、屋内とは違った趣が人目を引きました。ゆらゆらと揺れる版画の前で、親子の戯れている姿が印象的でした。
世界中を旅しながら、木々の間に作品を吊したり、塀を借りて絵を並べ、子どもたちと遊ぶことが夢だという西村さん。今回の試みは、夢に向かっての新たな挑戦であったのかもしれません。
いろいろありました


お二人の登場で会場は、ぱっと華やいだ雰囲気に。

「ふるさと」や「古時計」など数曲を演奏していただきました。






旧小野瀬邸の半地下(丸机の台所)のふるぼけたオーブンや水の出ない炊事場の上に置かれた西村氏の作品と版木。そして丸テーブルにはトウモロコシの種や草花が何気なく置かれていました。その狭い空間を西村氏は「かしの木の庭」と名付けました。
それは西村氏が主宰する「フリースクールかしの木」から採ったものです。「フリースクールかしの木」が目指すものは、子どもたちに教えるのではなく、考える機会を与えること。そして自然の中でのびのびと遊ぶことが出来る自由な空間を作ること。それが西村氏が提唱する理想の教育で、既に20年掛けて実践し続けています。
私たちが「丸机の台所」と呼んでいるこの部屋を、「かしの木の庭」と表現するには、薄暗く、あまりにも狭い空間のように感じました。ところが西村氏の作品を置くことによって、その作品に描かれた子どもたちのむじゃきな表情が、狭い空間を無限に広がるフリースペース、かしの木の庭に変えたのでした。
フリースクールかしの木HP「子どもの居場所」 http://homepage1.nifty.com/kashinoki/
西村明芳プロフィール
島根県木次町で生まれる。岡山大学教育学部特設美術科卒業。
牛久市にフリースペースかしの木を設立。
子供たちに自然の中で版画や造形を教える傍ら、自らも子供たちとのふれあいを創作活動のエネルギーにし、版画などの作品を制作している。
茨城県つくば美術館にて個展、うしく現代美術展出品、その他、都内、茨城県下の美術館、画廊、野外等にて個展

西村明芳氏
